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「鬼だー!!」
最近では三日に一度は騒動が起こっていた。町のどこかで叫び声が上がり、都を警備する検非違使(けびいし)たちが町を駆け巡る。
人々は皆、家の中へ身を潜めた。
「中の者たち、くれぐれも外へは出るな。鬼はどこをうろついているかわからぬ」
「必ず捕まえる。安心しろ。町は我々が守る」
検非違使の下士官たちが一戸ずつ回り、そう声を掛けながら、戸締りをさせていく。
戸口を叩く音がした。
奥の間にいた七緒(ななお)は、応答するべきかどうか迷った。
七条大路の東市に近くにある宿ながら、このところの鬼騒動のせいで、客足は減り、今日も宿泊客がいなかった。鬼が出ると囁かれる物騒な夜ではあるが、一人でも泊まってくれれば生活の足しになる。両親は遠戚の葬儀で留守にしていた。七緒一人では宿仕事など無理ではないか。そう言った父のことを見返したいとも思った。揺れる気持ちを落ち着けつつ、戸口へ向かう。
「どなたですか」
外の気配を察しようと、耳を澄ませたまま静かに声を掛けると、
「検非違使です」
優しげな声が返ってきた。
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