第一章  鬼騒動

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 耳元で火長が囁いた。  七緒は声を出そうとしたが、それも叶わない。 「安心しろ。俺たちは本当に検非違使だ」  火長が後ろから七緒の体を押さえ、代わりに大男が前に回り、右手で七緒の髪を撫でた。怪我などしていなかった。  大男は懐から縄を取り出すと、その巨漢に似つかわしくない、手慣れた素早さで七緒の足と腕を結んだ。最後に口の中に布を詰め、別の布を顔に巻きつける。抵抗する七緒の髪から、梅の花を象った飾り櫛が足元へ落ちた。 「おとなしくしてりゃ、ひどいことはしない」  だったらなぜ、こんなだまし討ちのようなやり方で自分を捕えるのだ――。七緒は混乱していた。胸の鼓動が高まる。口腔が塞がれ、鼻腔での呼吸もままならない。からだが一気に熱を帯びた。 「貢ぎ物に傷でもつけたら俺たちが殺される」  火長が背中から麻袋を取り出し、広げると七緒の頭にかぶせた。視界すら奪われた七緒の意識は、そこで途切れた。                *  袋の中にすっぽりと収まった七緒を大男が肩に担ぐ。その間、五秒とかかっていない。男たちはそのまま宿を出て、闇に沈んだ小路を急いだ。  火長の男は頭の中で、自分のしてきた仕事を振り返る。     
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