18人が本棚に入れています
本棚に追加
耳元で火長が囁いた。
七緒は声を出そうとしたが、それも叶わない。
「安心しろ。俺たちは本当に検非違使だ」
火長が後ろから七緒の体を押さえ、代わりに大男が前に回り、右手で七緒の髪を撫でた。怪我などしていなかった。
大男は懐から縄を取り出すと、その巨漢に似つかわしくない、手慣れた素早さで七緒の足と腕を結んだ。最後に口の中に布を詰め、別の布を顔に巻きつける。抵抗する七緒の髪から、梅の花を象った飾り櫛が足元へ落ちた。
「おとなしくしてりゃ、ひどいことはしない」
だったらなぜ、こんなだまし討ちのようなやり方で自分を捕えるのだ――。七緒は混乱していた。胸の鼓動が高まる。口腔が塞がれ、鼻腔での呼吸もままならない。からだが一気に熱を帯びた。
「貢ぎ物に傷でもつけたら俺たちが殺される」
火長が背中から麻袋を取り出し、広げると七緒の頭にかぶせた。視界すら奪われた七緒の意識は、そこで途切れた。
*
袋の中にすっぽりと収まった七緒を大男が肩に担ぐ。その間、五秒とかかっていない。男たちはそのまま宿を出て、闇に沈んだ小路を急いだ。
火長の男は頭の中で、自分のしてきた仕事を振り返る。
最初のコメントを投稿しよう!