第一章  鬼騒動

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 今年に入ってこれでちょうど二十人目。段取りさえ誤らなければ楽な仕事だった。  最近では、「ぼろぼろ」と呼ばれる浮浪者たちの報復合戦に手を焼くことが多かった。彼らは河原などに集って庵を組み、住んでいる。獣の皮を頭にかぶり髪を背中まで伸ばしていたが、ふだんは大勢で九品(くほん)念仏を唱えていた。  しかし、一旦「ぼろぼろ」の集団同士で抗争が始まると、僧侶の真似事をしていたときのしおらしさは消え失せ、やっかいな無法者と化す。棍棒やら刀やらを持ち出し、仲間の死を契機に復讐のための殺し合いが続き、翌朝には何体もの死体が川を流れた。  その抗争を制止することに比べれば、この仕事には危険が少ない。か弱く無抵抗な若い娘を傷つけずにさらうだけ。美しいおなごを縛り上げたところで、その操を奪えないもどかしさはあるものの、一線を越えれば自分たちの命に関わることなので、そこは理性がはたらき、自制できた。相方として連れている大男が、獲物を前にした熊のように、ときおり捕えた娘に手を伸ばそうとしたが、「おまえが触れた瞬間に斬る。その許可が出ている」と告げれば、納得はしないものの、しぶしぶ手を引いた。  あとはこれを、足のつかないよう、都の外の指定の場所へ運び出すだけ。     
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