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と――、先を急ぐ中、道行く先に影が見えた。
「何者だ!」
大男が野太い声を張るが、影は答えない。
「我々は検非違使です。どうされました」
火長が影のほうへ優しく声をかける。
近づく影は、笠をかぶり、黒衣を纏っていた。
「ちかごろの検非違使には放免(ほうべん)と呼ばれる前科者まで混じっているときくが、どうやらその噂、まことらしいな」
黒衣から鈍い光を発した刃先がのぞいた。
大男は担いでいた麻袋を足元に置き、刀を抜く。見開かれた目は猛禽のそれを思わせる。荒く息を吐きながら、ゆっくりと黒衣ににじり寄っていく。二人の距離感が交わったその刹那、大男は大きく刀を振りかぶり――
……小さく呻いた。
黒衣から伸びた刃が、すでに巨漢の胸を貫いていた。
そのまま大男はよろよろと後退する。
火長はその場で鞘を投げ捨て、刀を構えた。
検非違使の中では切り込み隊長と呼ばれ、その若さで元罪人たちを束ねている。腕には覚えがあった。
大男は串刺しとなっているのだから、すでに息絶えているはずだった――が、なかなか倒れない。そればかりか、徐々に速度を増して近づいてくる。
火長は大男の背中から伸びる切っ先を凝視しながら息を飲んだ。
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