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おかあさんが、やっと聞こえるような声で帰るようにと言っている。
口論をしている訳じゃないのに、おかあさんは戦っているみたいで、鼻の奥がツンとした。
「これを受け取って貰わないと帰れないんです。
ただ受け取ってくれればいいんです」
「だから、構わないで下さいと言っているんです。
あの子たちを巻き込まないで」
おかあさん。
巻き込まないでって言いながら、きっと葛藤しているんだろうな。
私達の本当の父親であることは代わらないし。
だけど、何を渡そうとしているのかな。
目を凝らして見るけど、おかあさんの小さな背中で隠れて見えない。
「子供たちにバイトさせているんですよね?
若い時の大切な時間、あなたが立て替えてあげられるんですか?」
女の人の声が少し、棘を持った。
嫌な感じ。
目の奥が熱くなった。
「お年玉なんて、子供にとって誰から貰っても嬉しいものでしょ。
母親なら、これ以上子供の喜びを奪わない方が良いじゃないですか?」
玄関から入り込む空気は凍てつく程寒いのに。
私の心は張り裂けそうなくらいに、熱かった。
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