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第五章
ある女の子に、訊ねられた。
「どんな風に愛情を伝えるの?」
訊ねられて、これまでの経験を思い浮かべる。
抱きしめて頬にキスを与えたり
耳に唇をよせて囁いたり
頬を両手でつつみキスをする。
俺にとって愛がなければできないものだからこそ
唯一、愛情を伝えられる手段だと思っている。
行き違った思いは、肌の触れ合いで誤魔化す。
忘れてくれと願いながら。
彼女は嬉しそうに照れて
「私も好きです」と答えてくれた。
彼女には逃れることのできない宿命があった。
俺はそばに寄り添うことで、その宿命を支えていた。
月日を重ね、彼女は俺の生まれた日をひっそりと祝う。
せっかく彼女から贈られたものなのに
控えめすぎるだろう……。
俺はそんな彼女も、好きだった。
あの日も、本当はそうすべきだったのかもしれない。
毎日の優しさに埋もれて、すっかり忘れてしまっていたんだ。
彼女のありがたみを。
逢いたい時には時間を作って逢いに来てくれた。
一人になりたい時も、何も言わずそばにいてくれた。
愛情も友情も、両方を得るには
俺は間抜けだった。
あんな風に抱きしめて好きだと言い、
キスをしていたら……。
あれは願望で、俺の作り話
今頃、君は……きっと幸せに過ごしてくれている
(いや、幸せじゃないかもしれない)
俺は、俺を救う為に、君が幸せだろうと信じるしかできないんだ。
全ては、俺自身にため。
滑稽で、情けない話さ。
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