消えたお年玉

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 そんな事もあったが母との仲は然程悪くはなく高校、大学と進み就職。そして、仕事がある程度落ち着いてから大学で出会った彼女と結婚し、半年前に子供も生まれた。  今日は、正月休みを実家で過ごそうと何年かぶりに初めて家族を連れて久々に帰ってきた。  唯一の風景とばかりに広がる田園と、遠くに見える家がぽつぽつと何軒かあるくらいで、興味を引くようなものは何もない。それでも、懐かしさで自然と俺の頬は緩んだ。 「変わらないな。風景も、このオンボロの家も……」  俺はぐるっと辺りを見回し、苦笑しながら曾祖父の時代からある平屋の家を眺める。  今でこそ屋根はトタンだが、自分が生まれた頃まではその当時でも珍しい(かや)ぶき屋根だったらしい。土壁だったのを丈夫な外壁にかえたのも、まだ赤ん坊の俺の為だったとか。  金もなかっただろうに、無理したんだな。  父は、母が妊娠中に事故で他界。  一人息子だった俺を一人で懸命に育ててくれた母に、親になってから今まで以上にとても感謝している。    少しくらいは、母の苦労をわかってたつもりだったんだ。  でも、本当に少ししかわかってなかった。    それを痛感したのは、子供が生まれてから。  きっと子供の成長とともに、これからも俺は母の偉大さを、そして感謝をしていくだろう。  俺は吐き出した白い息が消えるのを見届けた後、玄関の引き戸においた手に力を入れた。 「ただいま、母さん」
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