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第3章
5)
車の音を聞きつけて、翡翠色のシフォンドレスを身にまとったルイーズが、優雅な仕草で玄関を開けて出てきた。
別荘正面の広大な空き地に、色褪せた赤色のミニクーパーが停められ、セオが所在なげに車から降りてきた。
一体、何エーカーあるのだ、この別荘は…… 呆然と周囲を見回すセオに、ルイーズが挨拶する。
「久しぶりね」
セオは、昔より垢抜けてさらに美しくなったルイーズを眩しそうに、しかし、じっと見た。
セオが、あまりにもまじまじと見つめるので、見られることには慣れているルイーズも、一瞬はにかんだようにうつむいてしまう。それを見たセオのほうも気恥ずかしさが伝播したのか、つっかえつっかえ尋ねた。
「ええと……。車、ここでいいのかな? 広すぎてどこに停めたらいいのか」
ルイーズが答えた。
「建物裏に駐車場があるの。ごめんなさい、ジェス……私の使用人に停め直してもらうわ。鍵を貸していただける?」
セオはズボンのポケットに無造作に突っ込んでいたキーをルイーズに渡した。そのあと二人は、建物の中までゆったりと歩いて行く。
大きな玄関ドアの内側で、さりげなく待機していた長身のマッチョにルイーズは車の鍵を渡して、「ジェス、お願いね」と、ささやくように言った。ジェスと呼ばれたマッチョが去ったあと、セオの方を振り返ったルイーズは、
「意外に遠かったでしょう? 自慢じゃないけど、この別荘は私が自力で建てた、いわばプチ・トリアノン(ベルサイユ宮にあるマリー・アントワネットの館)みたいなものなの。もちろん、たくさんのお客様をお招きするのに恥ずかしくない程度の設備はあるわ。自慢のシャワールームもあるのよ。汗を流してきたらどうかしら?」
と、やや早口で言った。
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