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第5章
9)
建物裏の駐車場までルイーズに案内されたセオは、彼女から渡された小切手を持ち、ミニクーパーに乗り込んだ。
セオが運転席からルイーズの顔を見上げた時、彼女の目尻や口元に刻まれた深い皺を、夕方の強い陽射しが容赦なく暴いた。
それを見ないようにするためか、セオはルイーズから目をそらし、急いだ様子で車のエンジンをかけた。
「じゃあまた。元気で」
「ええ、貴方も」
見送るルイーズの顔には、何の感情も浮かんでいない。
そして、おそらく車中のセオの顔にも。
敷地から出て坂道を下っていくセオの車が見えなくなったとき、ルイーズの顔が歪んだ。あの日のことが甦る。
あの日、セオとルイーズは、ルイーズの父の頭を思い切り暖炉に打ちつけたのだった。
全て二人で共謀してやったことだ。
このままでは、私はいつか父から殴り殺されてしまう。いや、殺されないまでも、私の人生は滅茶苦茶に壊されてしまう。そう思ったルイーズはセオに相談した。
そして、20年前のあの日、彼らは殺人を決行したのだ。
ルイーズは、自分のしたことを決して後悔はしていない。
おそらくセオも後悔していないだろう。
ルイーズが毎日殴られていることを知っていながら、助けてくれない大人たちに絶望していたセオなのだから。
ありがとう、セオ。
あなたは私に素晴らしいプレゼントをくれたわ。
それは、私の新しい人生。貴方のおかげで、私は自由になれたわ!
お別れにもうひとつ、プレゼントをありがとう。
ルイーズは、カーブの多い道路を高台から見下ろしていたが、セオの車がそのカーブのひとつを曲がり損ねたように見えた。
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