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「……うん、そうだね。さっき俺が言ったことは忘れてくれ……」
「さ、早く立ち上がって。せっかくだから冷たい飲み物をどうぞ」
床に跪いたままのセオに声をかけ、ルイーズはカウンターバーの中に入った。そして、デキャンタに入っているレモネードをグラスに注ぐと、カウンターテーブルに置いた。
「どうぞ」
セオはゆっくり立ち上がって、カウンターまで行き、飲み物をありがたく頂戴した。
よく冷えたそれは、セオの体の隅々まで潤してくれるようだった。
優しい目で彼を見ていたルイーズが、
「待ってて、用意してくるわ」
と言うと、客間から出て行った。
セオは少し落ち着きを取り戻し、広い客間を見回した。部屋に通された時は気づかなかったことがいくつか目についた。
大理石の床は傷一つなく、真夏だというのに、なにかの白い毛皮が広げられている。その横には真っ白なグランドピアノが置かれていて、カウンターバーだけが不似合いな広い客間は、どこかクラシックな趣きを漂わせていた。かつてルイーズが憧れていた古い映画に登場した邸宅が、こんなものではなかったか? とセオは思い出した。二人で観た映画にあった。イギリスの貴族のお屋敷に、ここそっくりの部屋があった……。
田舎町の貧しい少女が、その才能を存分に発揮し、努力の末に手に入れた夢。セオは感動した。
彼女はやすやすと不幸を乗り越え、未来のみを見つめて歯を食いしばって生きてきたのに違いない。いつまでも過去に囚われている自分が恥ずかしくなった。彼女の言った通り、あれは不幸な事故だったのだ。共に手を携え乗り越えて一緒に生きていくつもりだったからこその行動だったが、どこか弱気になって次の一歩を踏み出せなかったから、俺は今までダメだったのだ。俺の弱さがリーアムの病気まで引き寄せてしまったような気がする。しかし、それも今日で終わりだ。ルイーズにも二度と会わないことにしよう。
一度だけ。そう、今回だけ彼女の好意に甘えよう。
「お待たせ」
ルイーズの、ファンを魅了してやまない甘い声がして、セオは様々な思考から解放された。
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