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一号車が出発して5分後、2番線に発車メロディーが流れた。
「あっ! 次は私の番!」
美咲はテンション高くルーレットを回した。
「2? たったの2しか進まないの?」
美咲はブスッとしながら路線図を見ていた。
列車はゆっくりとホームを出発するとトンネル内にある一つ目の駅を越え海沿いの駅に到着した。
「タンゴ会場。 タンゴ会場に到着いたします。 心行くまでお楽しみ下さい。」
車窓から見える景色に美咲はウットリとしていた。
海辺に作られた特設ステージでは華やかに着飾った男女が 『ラ・クンパルシータ』 の曲に合わせてクルクルと踊っていた。
「素敵…。」
幼い頃からタンゴに憧れを持っていた美咲は列車を降りるとその光景を眺めていた。
「バイラモス?」
スペイン語で声を掛けられた美咲は首を傾げながらも差し出された手をそっと掴んだ。
男性にエスコートされステージに立つ美咲は黄金色の社交ダンスドレスに着替えていた。
「綺麗…。」
美咲はドレスの裾を持ちヒラヒラさせると、うふふっと笑った。
会場の隅にはバンドネオンを持った演奏者が音楽を奏でていた。
「あ、この曲聞いたことある…。」
会場に流れる 『ジェラシー』 を聞きながら、男性のリードに身を任せ美咲はタンゴを楽しんでいた。
2曲、3曲と終わり少し疲れた美咲は休もうとしたが曲が終わっても相手は手を離してくれない。
「あの、ちょっと休憩を…。」
しかし、言葉の通じない男性は次の曲が流れるとまた踊り始めた。
男性のリードに応える様に勝手に動き出す身体に、美咲は少しずつ恐怖を覚えていった。
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