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それはいつもと何ら変わらないはずの学校からの帰り道。
これといって何もない田舎道を 「藤堂 雨音」 は1人歩いていた。
まだ日は暮れてはいないが、11月に入り気温は更に寒さを増している。
たまに強く吹く風が黄金色に輝くススキを揺らし、砂を巻き上げ雨音を苦しめた。
「痛っ!!」
瞳に激痛を感じた雨音は立ち止まりパチパチと瞬きをし、湧き上がる涙をセーラー服の裾で拭った。
「もうヤダ…。」
立ち止まり、小さな声で呟く。
他の人よりも大きな瞳のせいか、強風が吹く度に同じことを繰り返す。
いつもなら必ず持っている砂避けのメガネを忘れてきた自分にも腹が立った。
ふと視界に違和感を感じた雨音は左を向いた。
「あれ? あんな所に家なんてあったっけ?」
雨音はススキ野原の向こうにいつの間にか現れた古びた屋敷を見て首を傾げた。
いつもなら立ち止まらない道で、いつもなら気にもならないであろう屋敷、そしていつもならとっくに家に着いている時間。
雨音は1人屋敷を見つめていた。
また強風が吹くとブルリと身体を震わせた雨音は家路に向かうため歩き出した。
道路から外れ、吸い込まれるように荒れた野原をズンズンと進んでいく。
ガサガサと音を立て、パキパキとススキを踏みながらそれでも雨音の足は屋敷へ進んでいた。
「あれ? 何で草むらの中に居るの?」
ふと我に返った雨音は振り返ると来た道を戻ろうと一歩足を前に出した。
「誰?」
誰かに呼ばれた気がした雨音はそこで記憶を失った。
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