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雨音は号泣しながら目を覚ました。
ライラの言葉を思い出す。
エドの記憶を共有したのだと。
しかし、雨音が見たのはイザベルの記憶であり、心に溢れる気持ちはイザベルの想いである。
雨音は上半身を起こすと膝を抱えた。
ふっとエドの香りが鼻を擦ると昨晩も来ていたのだと知り心臓が飛び跳ねる。
今の気持ちが自分の物なのか、イザベルの影響なのか分からない雨音はグチャグチャの心を落ち着かせるため涙を流し続けた。
「ふぅーー。 よし!」
多少落ち着いた雨音はカーテンを開ける。
どんよりとした分厚い雲が空を覆い尽くしていた。
今の自分の心境と重なり、雨音は 「ふふふっ」 と笑った。
「今日は外には出られそうにないね。」
窓を伝う雨水に肩を落とすと着替え部屋を出て行く。
「…どうして私の夢に出てくるの?」
廊下に飾られたイザベルの肖像画に問いかけるが、微笑むだけで返事を返してはくれない。
「…ですよねー。」
雨音は唇を尖らせると書庫に向かう。
雨の日は湿気でインクの香りや表紙に使われている革の匂い、紙の匂いがいつもより強くなる。
雨音は深呼吸をするとその古めかしい匂いを肺一杯に吸い込んだ。
お気に入りのソファーに座り読みかけの本のを開く。
片手には使い古された和仏辞典がしっかりと握られている。
内容を忘れないようにノートに日本語で物語を書き直す。
今読んでいるのは、貴族の娘が階級が格下の使用人と恋に落ちる物語。
反対された2人は引き離されるが、それが余計に2人の気持ちに火をつける。
駆け落ちを決行しようと使用人が屋敷に忍び込んだ。
「雨音、ここに居たの?」
キリに声を掛けられた雨音は現実の世界に引き戻された。
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