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 尻尾を巻いた訳じゃないが、失敗には変わりない。苦々しい逃げ遅れ。しゃらくさいシャトー・マルゴーのボトルは植え込みに失せる寸前、振り向いた額へひびを入れた。 「キルケア、このゲス野郎!」  目の前を白く焼きながら飛び散った星が、闇に溶ける。それは傷口に急行すれば痛みと入れ代わり、やがて飛沫となって滴った。  間抜けな真夜中。ぱっとしないパティオで起こった流血沙汰。秋の夜風で艶やかに散るアカシアの葉が、ギリシャの円形劇場じみた舞台で踊っている。演じられるのは悲劇であり、喜劇だ。  中年男の興奮しきった攻撃は続く。今度こそ殺そうと、砕けた瓶が首を狙ってきた。緑の鋭い切り口が、きらりきらりと月光に輝いている。醜く赤く膨らんだ顔は惨めで浅ましく、ふてぶてしい。 「殺してやる! 殺してやる!」  分からず屋の二流俳優は、甲高く声を張り上げる。それを掻き消す勢いで、俺も喚き続けた。口を噤み、慎むつもりは更々ない。  かっとなったのは、奴がオカマで、生活に窮々とするキュートな未成年を金にあかせて買ってるからってだけじゃなかった。肌けたシャツの前を必死に掻き合わせる男娼を観客に、強がり突っ張って見せるのが気に食わない。     
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