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 スターの仕事とはすなわち? 鉛入りの痒い白粉をつけて、何時間も監督におもねってるだけじゃない。屁みたいな顔をした政府のお役人ウィル・ヘイズが定めた倫理コードは、俳優を廃人に、女優をジャンクに変えた。世間の模範となるべく、清廉とモラルを私生活にまで浸透させようと言うのだ。  くだらない建前は、結局クソみたいな探偵の飯の種に堕した。よその映画会社が抱えるお抱え俳優の秘密を陽向に引き出し、わがまま女優をクビにする為の名目をめっけ出す。おかげでこちらも土日を返上、へたった靴ごと泥沼にはまり込んでいた。 「余程強引な手段で現場を押さえたそうじゃないか。ジェームズ・ホエールから苦情が来てるぞ」 「総大将に泣きつかないと苦情も表明できないような甘ちゃんは、今後出世の見込みもなさそうだな」 「いや、これはホエール本人の積極的な行動だ。奴は自分のテリトリーを荒らされるのを好まない」  怪物の住処へ滑り込むのを許されるのは、白い襟足の少年達のみという事だ。  パーティーの主催者たるホエールは、自らの同性愛趣味を隠さない。監督した怪物映画のヒット以降、奴はすっかりユニヴァーサルの創造主気取り。社の立役者で、今は地位を追われた名プロデューサー、カール・レムリの後ろ盾を失ってもなお、奴が王として収まっている理由。掛け値なしの天才に、神の手助けは必要ない。 「しかもキャンベルが出演してるのは、奴の映画だと来てる。これ以上、あの偏屈イギリス人の機嫌を損ねたくない」     
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