新春お年玉争奪戦線

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 松の内の鮮やかな門飾りが、夕陽に映えています。ここ白金台の閑静な住宅街では、クリスマスに電飾で家を飾り付けるようなご家庭は少ないですが、お正月には立派な門松をそこかしこでお見かけします。わたくしが家政婦として働かせていただいている、寿(ことぶき)一族のお屋敷も、例外ではございません。  寿一族は、バブル経済の全盛期に不動産を売り切って財を成し、バブル崩壊後に全国各地を渡り歩いては、駅前の土地を底値で買って次々とホテルを建てた、都内有数の名家でございます。十年前に、先代の寿忠志(ことぶきただし)会長より、都内のコトブキホテル全ての経営を託された、息子の仁志(ひとし)様が、今の社長であり、寿家の現当主でございます。その妻の幸子(さちこ)様との間に生まれた四人の子どもたち、珠子(たまこ)様、雅志(まさし)様、清子(きよこ)様、そして淳志(あつし)様、彼らが、本日の催しの主役でございます。  一昨年より、当主の仁志様のご提案された“予算委員会”は、親戚一同から頂戴した子どもたちのお年玉を一旦預かり、その用途を話し合うというものでした。しかし、忠志会長のご提案で、ルールが追加されたのです。 まず、子どもたちは一人ずつ、お年玉の使い道について各々プレゼンを行います。そして、審査員である忠志会長とその妻であるマツ様、仁志様と幸子様、そして子どもたちがそれぞれ一票ずつ、一番良かったと思うプレゼンに投票し、最も多く票を集めた子どもが、最初に預かった全てのお年玉を貰える、というルールでございます。勝者が全てを得て、敗者は何も得られない、所謂ゼロサムゲームですね。生馬の目を抜くような世の中ですから、子どもたちには、ただ与えられるのではなく、実力でそれを勝ち取るということを学んでほしいのでしょう。会長らしいご提案でございます。  予算委員会および、お年玉争奪プレゼン大会が、今年もこの大広間で開催されようとしています。司会進行は、例年どおり、わたくし佐藤和美が、僭越ながら務めさせていただく運びとなりました。どうぞよろしくお願いいたします。
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