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続いて、長男の雅志様のプレゼンです。高校二年生の雅志様は、珠子様同様、学業もそつなくこなす優等生。背はすらりと高く、あの有名なフィギュアスケート選手を彷彿とさせる耽美なお顔立ちで、校内にはファンクラブもあるのだとか。
「長男の雅志です。僕が100万円を得たあかつきには、それをすべて仮想通貨に換えます。知っての通り、近ごろの仮想通貨の注目度は高く、いずれは円やドルに匹敵する価値を持つのではないかと見込まれています。また、貯金の習慣がない欧米では、余ったお金は投資で運用するのが一般的です。我が寿一族は、投資で財を成しました。この機を逃す手はありません。少なくとも、贅沢したいがためにこそこそと貯め込んでいるピンハネ女王にお年玉を託すのは、得策ではないと考えます」
雅志様のプレゼンが終わり、質疑応答の時間になるやいなや、珠子様がすっと挙手しました。
「いま流行りの仮想通貨ね。最近ちょっと投資に興味を持ち始めた程度のあなたが扱えるような代物かしら?みんなの大事なお年玉を、あなたの一時の好奇心で擦り減らしてほしくないわね。それとも、勝算があるのかしら?」
雅志様は、珠子様との折り合いが悪いです。お二方とも強い矜持がおありのようで、日頃より度々衝突しておられますが、今回の予算委員会でもぶつかってしまいましたね。
「勝算?これだから素人は困る。この世の中に“絶対に儲かる話”なんて存在しないんだよ。たしかに僕はまだ仮想通貨についてそれほど詳しいとは言えない。そもそも仮想通貨じたいが発展途上なんだ。みんな模索しながら投資してるのが現状。大事なのは、儲けることじゃない。今を知ることだと、僕は思う。かつて時流を読み、財を成した寿一族としてね」
雅志様は、自分が四人の中で一番優秀だと思っているところがございます。次期当主の最有力候補ということもあり、寿一族に対する思い入れも一番強いですが、残念ながら予算委員会ではまだ一度も勝利していません。内心かなり焦っているのではないでしょうか。
会長の忠志様が手を挙げます。
「仮想通貨、たしかに博打のような側面もあるが、儂とて経営者の端くれ、興味がないわけではない。たとえお年玉が十分の一になろうとて、投資してみる価値はあるかもしれんの。だがもし仮に、十倍になった場合はどうするつもりかね?」
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