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秋祭り。浴衣で待ち合わせ。
夜なので黒地に、紫とピンクの帯、裾に白い花のグラデーションにした。
髪は少しアップにし、飾りにすずらんみたいな揺れるかんざしをつけた。
藤ヶ谷くん、私を見た瞬間。
「浴衣。
彼女が浴衣
はあああ」
深いため息をつく。
そんな彼も、艶姿。
「藤ヶ谷くんも浴衣だね
似合ってる」
「浴衣が似合わなくてもいい!」
「え?」
「お前と似合いたいの!」
むきになる藤ヶ谷くん。
「百年続いた平和はないかもしれないけど
一生をかけてひとりの女を守りたいって思う。
…
ありすが心底愛おしい。
会えば会うほど切なくなる。
ありすがかわいすぎて恥ずかしくなるよ」
「そ、そんなあ」
私は真っ赤になった。下を向いてしまう。
「行こう、お祭り」
手を伸ばしたらふれられるのに、藤ヶ谷くんはつないでこない。
からんころんと草履の音だけが響く。
私は時折、藤ヶ谷くんの手を見る。
綺麗な指だけど、しっかりと強いことをもう知っている。
長いだけじゃあない腕のたくましさも。
歩幅をあわせてくれる優しさ、時折見つめてくれる、しっとりとした瞳。
色んな藤ヶ谷くんを知っている。
(どうして手をつないでくれないのかな)
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