第3章 はじめての呼び捨て

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「夢だったんだ。好きな女の子を家まで送るの」 藤ケ谷くんが私の家まで送るという。 「今日はいっぱい夢が叶った」 小首を傾げ、はにかむように笑う藤ケ谷くん。 「…ありす…」 (え、呼び捨て?) 不意に抱きすくめられる。 「…」 動物園のフラミンゴの前。ピンク色の羽が舞う中、藤ケ谷くんの胸にすっぽりとおさまった。 「ありがと。すげー思い出になった」 堅い胸板が厚い。二の腕がしっかり私を護るようにくるむ。 「やっぱ華奢」 「…」 耳元に藤ケ谷くんの吐息がかかる。 「やっぱかわいいよ。北山さん、折れそう。だけど壊れちゃいそうでも大好き。大切にしたい」 「…」 「大好きだよ、ありす」 抱き締める腕が心地良い。うちのぬいぐるみのバクをもっともっと大きくしたみたい。 「これを最後にしたくない」 「…」 藤ケ谷くんはほんの少し体を離して、じっと私を見た。 「俺を友達で終わらせないで」 かすれた声が私に告げる。 「やっぱ好きだ。友達じゃ苦しい。俺を好きになって」 「…」 切なげな瞳が熱っぽく、甘く艶やかに私を見る。 「俺と付き合って。大切にするから」 そのまま、ぎゅっと抱きしめられる。 ぎゅ。ぎゅー。 「藤ケ谷くん…苦しいよぅ」 「え?…わわ、ごめん?ごめん!壊れた?折れた?大丈夫?」 「だ、大丈夫。でも、展開早すぎだよぅ」 「え」 「だって、いきなり…」 「へ」 「いきなり、動物園で抱きしめられたら怖いよ」 「ご、ごめん」 ぱっと離れた藤ケ谷くん。 私は下を向いた。 「藤ケ谷くんには、何人目かの彼女でも、私は初めてだから…抱っこされるの慣れてないから、急に色々しないで!ちゃんと友達からにして…怖いよ…」 「ごめん…でも」 「でも?」 「俺も初めてだよ」 「え」 「女の子と付き合うのも告白するのも、好きになるのも」 「ええ?でもアッキーが、藤ケ谷くんはモテモテだって言ってたよ!」 「モテモテでどうすんだよ!」 「?」 「好きな女に好かれないで怖がられてどうすんだ! 好きな女に好きになってもらいたくて何が悪い!」 「…」 「俺、北山さんが好きだ。死ぬほど好きだ。毎日夢に見るし、あなたのクラスメートが羨ましくて歯軋りする。 友達からでもいい。 でも友達で終わりたくない。 俺は本気だし、あなたしかいらない」 藤ケ谷くんは、真剣に私に告白する。 私は、どうしていいかわからず、小さく頷いた。
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