鉄道オタク

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鉄道オタク

 世間から鉄道オタクと呼ばれている人種だ。  俺はともかく列車の形が好きで、昔からたくんさの列車の写真を撮影しまくっていらた、撮り鉄という種類に分る仕入れた。  一方、あちこち巡っている時に知り合った友達は、乗り鉄と呼ばれるタイプのオタクで、列車に実際乗ることを何より好んでいた。  列車に対する向き合い方は違うが、俺達は気が合って、頻繁に情報のやりとりをしては、各地の駅で顔を合わせていた。  あの日も、友達が入手した情報を頼りに、俺達はとある地方の小さな駅で落ち合った。  とうに廃線となった路線を走っていた車両の限定復活。その割には集まった人間が少ないが、極秘情報だということなので、むしろ人の少なさをありがたいと思った。  いつものようにプラットホームに機材を置き、列車が現れるのを心待ちにする。友達は切符を手に、乗車を今か今かと待ち侘びている様子だ。  程なく列車が現れ、俺は撮影を開始した。  本来車両しか撮らないが、友達と落ち合った時には、列車に乗り込む相手も撮影するようにしている。  ファインダーの中、俺にピースサインを向け、友達は列車に乗り込んで行った。  やがて出発時刻が来て、友達を乗せた列車は駅を走り出して行った。…けれどこの列車はどこかの駅に着くことも、ましてや元の駅に戻ることもなかった。  友達と、情報を聞きつけてやって来た数人の乗り鉄連中を乗せたまま、忽然と列車は姿を消したのだ。  俺のように、友人知人が列車に乗っていくのを見送った奴も何人かいて、皆で駅員に列車のことを尋ねたのだが、廃線列車の復活の話などなく、どこからそんな情報が出回ったのか、駅員すら知らない有り様だった。  そしてもう一つ。  後日、その時撮影した写真を現像してみたのだが、あの日見た列車が映っている写真は一枚もなく、友達や他の乗り鉄連中が線路上の何もない空間に立つという、ありえない写真が何枚も出現した。  あの列車は何だったのか。そもそもどこから廃線列車復活の情報は回ってきたのか。そしてあの列車に乗って人達はどこへ行ってしまったのか。  判らないことだらけだけれど、それでも俺は懲りることなく、暇を見つけてはどこかの駅へ向かい、列車の写真を撮り続けている。もしかしたらその駅にあの日見た列車が停まり、消えた友達がひょっこり下りて来るのではないかと期待しながら。 鉄道オタク…完
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