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「知華」
刹那、聞き慣れた声が私を呼ぶ。
沈んでいた心が一気に浮上した。
顔を上げて彼を探す。
……と、改札の向こうに立っていた彼を見付けた。
見付けたけれど、私の表情は一瞬にして再び、いやそれ以上に険しくなった。
彼の隣には見知らぬ女の子。
きっと、彼の会社の例の子だ。
休日出勤と言うには、随分と着飾った……まるでデートみたいな服装の彼女。
ああ、そうか。
……何だ。
そう言うことか。
休日出勤何かじゃないんだ。
最初からデート……だったんだ。
途端に私は駆け出した。
走って走って走った。
何だ、バカみたい。
だったらきちんと言ってよね。
寒い中、洋太を信じて雪をかぶって最終的には五十分も待っちゃったじゃない。
息を切らして、結局私は元のベンチへと舞い戻っていた。
人目も憚らずに、突っ伏してひーんと泣く私。
泣いて泣いて泣いた。
信じてたのに。
浮気なんてするわけがないと思ってたのに。
……ばか。
洋太のばかっ!
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