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……ナオーン。
消えそうな鳴き声が再び私の足元で鳴く。
そこに目をやると先程の白い子猫。
「……あれ、お前また来たの?お母さん心配するよ」
ずびっと鼻を啜る。
そっと子猫に手を伸ばすと、その手に顔を擦り付けてくる。
ゆっくり抱えると私の指先をざらざらした舌が舐め始めた。
「はは、慰めてくれてるの?一丁前だね。ありがと」
子猫を抱き上げ膝に乗せる。
はあっと一つため息が出た。
「プレゼント、無駄になっちゃった……」
彼が欲しがってた腕時計。
少し高かったけど、今年は奮発したのに。
「……バカだよね。どうせなら貰ってから別れたら良かったのに」
私がつけるには大きすぎる。
行き場が無くなってしまった時計の包みにごめんね、と心の中で謝る。
これは仕方無い、弟にでもやろうか……。
彼は……私に何を用意していたのだろう。
『内緒。当日まで楽しみにしていて。……受け取ってくれると嬉しい』
そう言ってはにかみながら、中々教えてくれなかった。
私が『私のプレゼント凄いよ』と言うと『俺のも多分』て言ってたのに。
それ、あの子にあげちゃうのかな……。
私の事を心配してるのか、また子猫が甘く鳴く。
「私なら大丈夫だから心配しないで。お母さんのとこ戻りなよ」
膝に乗せて一撫でするとまた地面に戻した。
それでも私の足首にすりすりと頭を擦り付ける。
「良い子。でも、ほらお母さんが心配するから」
頭を撫でてやろうと手を伸ばした、その途端に猫が跳ねるように駆け出した。
まるで何かに驚いたよう。
不思議に思いながら猫が駆けていくのをじっと見詰める。
ある程度離れてから、その猫はこちらを振り返った。
でも、その目線は私より少し後ろを指していた。
その視線を目で追い、振り返る。
するとそこに、息を切らした彼が立っていた。
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