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「ごめん。……スマホ家に忘れてきた……。お前の電話番号なんて、覚えてないしさ。……仕事も
、なかなか終わんないし。本っ当にごめん。その……怒ってる、よな?やっぱり……」
「……彼女は?置いてきて良かったの?デート……だったんじゃないの?」
彼も見ずに鼻をかむ。
もう色気も何もあったものではない。せっかくいつもより頑張ったお化粧だって、きっと涙でぐしょぐしょだ。
「ばっ……そんなわけないだろ?仕事ってちゃんと言ってたじゃん」
私は彼の顔も見ることが出来ないまま手に持っていた紙袋を突き出した。
別れることを覚悟しながら。
プレゼントで釣ろうとかそんな事したかった訳じゃない。
ただ、もし弟にこれあげちゃったら、きっと見るたびに思い出すのだ。
クリスマスイブに彼に浮気されて振られてしまったことを。
だから、私の目の届きそうな場時には置いておきたくなかっただけ。
「……最後のプレゼント。……別れてあげるから、彼女のとこ戻ってあげなよ」
なるべく毅然として言う。
若いあの子に負けたとか思いたくない。
「は?だから違うって。お前、なんか誤解……」
隣に座って私の泣き顔を覗き込んでくる彼から顔を背ける。
「いいから聞きたくないっ!彼女滅茶苦茶気合い入った格好してたじゃん。あれで仕事とか言われたって……分かりやすい嘘付かないでよっ」
バカ。せっかく湿っぽくならないよう気を張ってやったのに一瞬で崩壊した。
泣きたくないのに涙が出ちゃう。
泣きたいんじゃない。本当は怒りたいのに。
「だから誤解だって」
「もういいって言ってるじゃん。放っておいてよ。とにかくもう帰る。寒いから。風邪引いちゃう。雪の中で五十分も待ってたんだから!」
「だからごめんって……」
私を抱き寄せて背中を擦る、その手が大好きだったのに……。
「……うちにある荷物、私が居ないときに取りに来て。合鍵はちゃんと返してよね……じゃあね。ばいばい」
彼から離れて立ち上がる。
何でこうなっちゃったんだろ。
こんなに大好きなのに。
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