第1章

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「…森下さん、挨拶終わりました。」 吉沢が一声かけると…やっとパソコンから目を離した森下。 下から吉沢を睨みあげる森下の目付きはとても鋭く…吉沢は思わず息を呑んだ。 「…全員の名前、覚えたんだろうな?」 「……はい、一応。」 物覚えが悪い吉沢は、一人一人の挨拶が終わる度にしっかりと、名前とその人の特徴をメモしていた。 だから頭にはしっかりと入っていたし、これから忘れたとしてもメモを確認すれば良い。 普段はこんな事をしない吉沢だったが…森下に少しでも気に入られるように、怒られないようにと試行錯誤した結果だった。 ---その様子を、森下は見ていないようでしっかりと見ていた。 森下は顔を一度見たら大体覚えるし、名前もすぐ一致させることが出来る。……だから森下にとって、吉沢の行動は無意味なものではあるものの、努力をする人間は嫌いではない。 ……馬鹿で要領は悪いが、努力はするタイプか…、森下にとって吉沢の印象は少しだけ変わった。 そんな事とは露知らず…吉沢は次に何を言われるかビクビクしていた。 ここまでご機嫌取りに一生懸命になったのは久しぶりだ…と、吉沢は深く溜息をつきたい気持ちを抑えていた。
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