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『僕』が僕に伝えたかったこと
手紙をテーブルにそっと置き、鞄は床に転がして、コートを脱いでハンガーにかけ、電気ストーブのスイッチをかちりと回した。
じんわりと温かいオレンジ色の光が、少し遠くにある白い封筒を淡く染め上げる。
各々手紙を書き終わった後、何年後の自分に宛てるかを決めていなかった僕たちは、それぞれがいつの自分に届けるかを決めることにして、タイムカプセルのサービスを行っている業者に頼んで、その手紙を未来に託したのだった。
そして僕は、成人式から三年後の今日、この日に僕に手紙を読ませることに決めたのだ。
「性格悪いなあ、自分」
テーブルに横たわっている手紙を横目に見ながら、僕は口元に苦笑を浮かべた。
三年後――僕が社会人になるその年を狙って、この手紙を見せるとは。
とん、とん、と部屋の中を無意味に少しだけ歩く。
新たに家にやってきた小さな存在が、僕の胸をざわつかせた。
僕は、僕が手紙に何を書いたか、その封筒の中に何が入っているか、すべて覚えていた。
ずっと頭の片隅に残っていた、灰色のしこりのようなもの。
それが視覚化されて、今僕の部屋で開かれることを待っていた。
ふーっ、と長く息を吐き、一瞬止める。
そして僕はテーブルに手を伸ばし、僕が僕に送ってきた封筒を、ゆっくりと丁寧に破っていった。
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