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まるで真実をすべて込めたような手紙の中で、僕はひとつだけ嘘をついている。
『マンガのためのバイトのはずが、いつのまにかバイトのためのバイトになって、僕はマンガを描かなくなりました』
そうじゃない。
アルバイト先のためにバイトをしたのでも、制作資金以上にお金が稼ぎたくてバイトをしたのでもない。
僕はただ、逃げたのだ。
たった一度、小さな賞に選んでもらっただけで、本当にマンガ家になれるのだろうか。
百歩譲って、念願叶ってマンガ家になれたとして、その後はどうする。
デビューした後、コンスタントに連載を勝ち取れているマンガ家など一握りだ。
その中に、自分は入っていけるのだろうか。
そういった、なるべく考えないようにして、けれどいつのまにか心のどこかで考えてしまっている、漠然とした不安。
僕は都合のいい言い訳を見つけて、マンガにあてる時間を減らしていった。
バイトがあるから、就職活動をしなくてはいけないから、仕事をしなければならないから。
そうやって僕は、僕を蝕む灰色の不安に背を向けて、音を立てずに逃げ出した。
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