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「はい、おまたせー」
成人式とは名ばかりの、ただの飲み会と化した同窓会の真っ最中に、もうすぐ還暦を迎える中学校教諭が、大きなプラスチックケースをどん、と音を立てて床に置いた。
「先生、それ何?」
ビールを片手に、ケースが置かれた場所のすぐそばにいた同級生が問いかけた。
中学の頃の僕らの担任は、その言葉ににやり、といたずらっぽい笑みを浮かべて答えた。
「タイムカプセルよ。覚えてない? 三年生の時にみんなでその時の宝物をケースに入れて、成人式で開けてみましょうって企画、したでしょう」
あーっ、と甲高い叫び声が遠くで上がる。
そういえば、そんなことをしたような気がしなくもない。
え、やだ、なんか恥ずかしい、などときゃあきゃあ騒ぐオトナたちを気にも留めず、先生はおもむろにケースの蓋をぱかりと開けた。
「はーい、じゃあ名前を呼ぶから取りに来てねー。まずは荒木くん!」
「うげ、出席番号順かよ」
そう言いながら、僕の隣に座っていた荒木がしぶしぶ立ち上がり、満面の笑みを浮かべる先生のもとへと重い足を引きずっていった。
「はい、成人おめでとう、荒木くん」
「どうも、ありがとうございます」
まっすぐに腕を伸ばして小さな袋に入れられた『宝物』を差し出す先生に、荒木は目を合わせずにぺこりとお辞儀をする。
少し遠かったけれど、荒木の耳がほんのりと赤くなっているのが見えた。
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