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「いや、そんなことねえよ。今更カメラマンなんてなろうと思わんし」
思わず苦笑しながら返すが、藤守は何も言葉を返さずこちらを見つめている。
「いや、本当に…」
カメラマンになることは諦めていた。それを専業にするには、カメラが好き、風景が好き、それだけでは成立しないことは身をもって体験している。けど、それでも俺は、諦めきれていない自分がいることも感じていた。けど…
「意味がないからか」
ふと、思い浮かんだ言葉を口にした。藤守がまばたきをする。
「俺がカメラマンになっても、俺より腕の良い奴、愛想の良い奴、交渉力のある奴のほうに仕事が回る。俺がカメラマンとして生かせる才能は無きに等しいんだよ」
我ながら卑屈すぎるからやめようかと思ったが、藤守は聞く体勢を崩さない。仕方なく俺は続ける。
「芸術的センスだってねえし、俺の写真を唯一認めてくれる人も、もういないし…。だから、そんな俺がカメラ続けてても意味がないって思って…」
気を取り直すため、俺はハイボールをゴクリと飲む。藤守は黙っている。
「わかってるよ。お前がさっき言ってた、『意味』ってものにまみれてるんだよ俺は。でも、だからって、どうしようもないんだよ今の俺には」
「そうかな」
そう嘆く俺に、藤守はテーブルの上の封筒をスッと押して俺に近づける。
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