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「例えばさ」
言いかけて、藤守はジョッキのハイボールを口にする。一口二口飲んで、ジョッキをコースターの上に置く。
「…例えば、11万相当のレンズだったら、阿久比は嬉しいんじゃない?」
「いや、今は別に」
「でも嫌な気分じゃないでしょ?」
「いや…まあ…」
「そんなに必要なモノじゃなくても、モノをもらうことには抵抗がないんだよな」
以前に趣味にしてたカメラ。それで食っていけるようになりたいと思い、頑張っていた時期もあった。だけど今は仕事やバイトで忙しすぎてカメラに触れてすらいない。
そんなカメラの話題が不意に出てきて、俺は気まずくなる。それを誤魔化すように声を出した。
「いや待て、だから、なんで現金なんだよ!話が逸れてるぞ」
「何かドリンク頼む?」
「ハイボール…じゃなくて!」
藤守が呼び出しボタンを押す。そして再び自分のハイボールを口にする。
「じゃあ、俺はウーロン茶かな」
「おい藤守」
「わかってるって。言うから。言うから落ち着けよ。あ、なんかつまみも頼もうかな」
言いながら藤守はスタンドからメニューを引き抜く。
「阿久比は何か食う?」
「チャンジャ」
「またか。好きだなー」
「うるせーよ」
何だかんだ、藤守に流されやすい自分が、情けなかった。藤守も、自分のペースや流れをすぐに作り出せるからこそ、会社運営というのが出来るのかもしれない。
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