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「空いたお皿お下げしまーす」
と気の抜けた声でテーブルから離れていく店員。
俺は手前に置かれた小鉢のチャンジャをつまむ。
「金ってのは、本当に嫌なやつだよ」
藤守はウーロン茶の入ったグラスの底面をおしぼりで拭き取りながら言う。俺は、本題に入ったかと、箸を置いて素早くハイボールを口にする。
「金が関わると、それで振り回されたり、人生狂わされたり、人の信用を失ったり」
笑いながら話すものの、その目は全く笑っていない。俺も身に覚えがあるから、その言葉はよくわかる。けど恐らく、藤守は俺以上に様々な修羅場を抜けてきたのだろう。
「でも、それはただの思い込みなんだよ」
ウーロン茶を口にして、コースターの上に置く。
「思い込み?」
「金が嫌なやつっていう思い込みだよ」
何とも言えず、俺は怪訝な表情になる。
「大金持ちってだけで悪い奴認定されたり、宝くじで高額当たると不幸になるって思われてたり」
「宝くじは実際そうなんじゃねえの?」
「聞いた話だけど、世に出てるのがそういう事例ばかりってだけらしいよ。実際には平穏な暮らしを送ってる人も多いみたい」
へえ、と気をとられて感心していると、藤守は再びテーブルに手を置いた。その下には、茶封筒。
「こうやって、日本銀行券をプレゼントすることも、何故か悪い事とされてたり」
「いや、それは」
反論したかったが、上手い言葉が思い浮かばない。
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