金という意味

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「わかるよ、阿久比の言いたいことも。俺だってこんなこと言ってるけど、まだ腑に落ちてない感じはあるし」  封筒から手を離し、テーブルの上に封筒だけが取り残される。 「でも、そういう常識とか、思い込みとかは長い歴史で後付けされたもので、実はただの意味でしかないんだよ」 「意味…」  俺はいまいち理解できなかった。でも、何か引っ掛かるような感覚があった。 「そう、意味」  藤守も噛み締めるように繰り返す。 「金ってやつも、本来はモノを交換するための代用品ってだけなはずなのに、ズルしたり、ごまかして使ったりする奴が出てきて、それがエスカレートしていって。そうやって正しく扱わない奴が悪いのに、気がついたらその責任が金の方に移っちゃって、『金=悪』みたいな意味をつけられてしまった。金は生活のために必要だし、より多く欲しいもののはずなのに、そんな意味を付けてしまってるから金に振り回される」 「それはわかるんだけど」  藤守の話も納得はできる。が、口を挟まずにはいられなかった。 「その話と、この金、どう繋がるんだよ」  俺はテーブルの封筒を指す。藤守は軽くうなずいて答える。 「つまり、そういう意味に囚われ過ぎると、生きづらくなるってことだよ」 「は?」 「だから。まずはその囚われから解放するための第一歩として、このプレゼントを受けとれ」 「は?意味がわかんね…」  言いかけて、つい自分の発した「意味」という単語に反応してしまった。 「意味があることが正しくて、意味のないことが間違ってる。そんなのも人間が後付けした『意味』だよ」 「おい…」  訳がわかんなくなってきた。頭を抱える。 「お前は変に真面目な所があるから、そういう『意味』にまみれすぎて、辛くなってんじゃないのか?」  思わず、うつむいていた顔を上げる。緩い表情ながらも、力のある視線がこちらに向けられている。  少しためらうように唇が無声で動いた後、藤守はこう言った。 「特に、おばさんが亡くなってから」  息が止まった。  それはほんの数秒だったろうが、俺には数分ぐらいに感じられた。
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