7人が本棚に入れています
本棚に追加
「わかるよ、阿久比の言いたいことも。俺だってこんなこと言ってるけど、まだ腑に落ちてない感じはあるし」
封筒から手を離し、テーブルの上に封筒だけが取り残される。
「でも、そういう常識とか、思い込みとかは長い歴史で後付けされたもので、実はただの意味でしかないんだよ」
「意味…」
俺はいまいち理解できなかった。でも、何か引っ掛かるような感覚があった。
「そう、意味」
藤守も噛み締めるように繰り返す。
「金ってやつも、本来はモノを交換するための代用品ってだけなはずなのに、ズルしたり、ごまかして使ったりする奴が出てきて、それがエスカレートしていって。そうやって正しく扱わない奴が悪いのに、気がついたらその責任が金の方に移っちゃって、『金=悪』みたいな意味をつけられてしまった。金は生活のために必要だし、より多く欲しいもののはずなのに、そんな意味を付けてしまってるから金に振り回される」
「それはわかるんだけど」
藤守の話も納得はできる。が、口を挟まずにはいられなかった。
「その話と、この金、どう繋がるんだよ」
俺はテーブルの封筒を指す。藤守は軽くうなずいて答える。
「つまり、そういう意味に囚われ過ぎると、生きづらくなるってことだよ」
「は?」
「だから。まずはその囚われから解放するための第一歩として、このプレゼントを受けとれ」
「は?意味がわかんね…」
言いかけて、つい自分の発した「意味」という単語に反応してしまった。
「意味があることが正しくて、意味のないことが間違ってる。そんなのも人間が後付けした『意味』だよ」
「おい…」
訳がわかんなくなってきた。頭を抱える。
「お前は変に真面目な所があるから、そういう『意味』にまみれすぎて、辛くなってんじゃないのか?」
思わず、うつむいていた顔を上げる。緩い表情ながらも、力のある視線がこちらに向けられている。
少しためらうように唇が無声で動いた後、藤守はこう言った。
「特に、おばさんが亡くなってから」
息が止まった。
それはほんの数秒だったろうが、俺には数分ぐらいに感じられた。
最初のコメントを投稿しよう!