プロローグ

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プロローグ

僕達の世界に突然訪れた絶望は、人々を混乱の渦に陥れた。 「愚かな人間共よ。突然だがこの世界は我々悪が支配する。ゴミクズのように生きる人間共を排除し、魔人達が住みやすい世界へと作り変える」 ある日テレビに映し出されたその映像は、全ての人間を釘付けにした。 「俺は魔界の王リア・リセス。最後にこの俺の名を脳裏に刻み付け、そして惨めに死ぬがいい。ゴミクズ共」 真っ黒なコートを羽織った銀色の髪の男は、何の興味も関心もない赤い眼で僕達人間を貶し見つめ。そしてただ不敵な笑みを零した。 一見僕達とさほど変わりない外見に思えた男だったが。さらに人間達により恐怖を与えるためか、突如背中から悪魔を連想させる黒々とした大きな骨組みの羽が姿を現し。そこでようやく人間達は悪寒を覚え、皆声を震わせた。 これは作り物。 そう思いたくても、その男の存在は脳はそう錯覚させてくれない。 あの男はまさにーー『悪』だった。 「では、始めよう」 リア・リセスの合図と共に、人々が集う街中で魔人と呼ばれる悪が一斉に暴れ始めた。 魔人達は逃げ惑う人々を捕まえては、手をかざして人間達の口の中から何か黒い靄のようなモノを取り出している。 それを取り出されてしまった人間達は、皆まるで抜け殻のように動かなくなってしまった。 もしかするとあれは、魂を取られているのかもしれない。 ーー僕も早く逃げなければ。 頭ではそう警告しているはずなのに。 それでも僕は、未だテレビの画面に映るリア・リセスという魔人をただジッと、流れ星でも見つめるように眺めていた。 この感情は、一体なんだろうか? 胸からジクジクと熱いものが込み上げてくるような、頭からフツフツと何かが沸騰してしまいそうな、苦しい。でも嫌じゃない、不思議な感情。 出来ることならテレビの中へ入って、今すぐ彼を僕の方へ引きずり出したい。 そんなありえない事まで考えてしまうほど。 ーー本物の彼を見てみたい。 ーー本物の彼に触れてみたい。 ーー本物の彼と話してみたい。 そんな感情ばかりが、僕の中を渦巻いて。胸を締め付けた。 「いつか。いつかきっとーー」 ドクドクと煩く鳴り響く胸に手を当てて、僕は誓う。 いつかリア・リセスに会ってみせると。 そして、彼を僕の手で止めて見せると。
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