弱虫ブルーと、魔界の王

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そもそもヒーローになった理由だって、自分の邪な気持ちがきっかけだった。 ある人に会ってみたい。 その人を一度でいいからこの目で見てみたい。一度でいいから話してみたい。 そんなただ珍しいもの見たさの為に、僕はヒーローになり。氷の戦士ブルーとして人助けをしていた。 最初は楽しい気持ちもあったんだ。 困っている人を助けるという行為は、僕を正義だと実感させてくれる。皆も感謝してくれる。 ヒーローというのは、なんて気持ちのいい仕事なんだ。なんて……まるでテレビの中のヒーローにでもなった気分で、僕は今まで色んな人達を守ってきた。 けれど。 いざ誰かを助けられなかった時の後悔や罪悪感はとてつもなく重たくて、こんな思いを一生背負って生きていかないといけないんだと知ってしまった時。 僕は、ヒーローとしての自分に自信が無くなってしまった。 「さて。勝手に落ち込んでるところ悪いが、俺も忙しいんだ。そろそろ死んでもらうぜ」 「ぁっ……」 魔人の腕が俺の首元に近づいてくる。 ーー殺される。 嫌だ、駄目だ、まだ死にたくない。 「アッ、ガッ!」 首を掴まれ、身体がゆっくりと持ち上がる。そして苦しむ僕の口元に、魔人の手がかざされた。 その瞬間。僕の大事な何かがどんどん吸い取られていくような感覚がして、身体がゾワゾワと気持ち悪くなる。 「い、や、だ」 このままでは死んでしまう。 まだあの人にも会えていないのに。 「助けてっ」 霞んでいく視界の中。あの時、目の前で見てしまった死の瞬間が脳裏に浮かんだ。 僕も、あの人のように今から死ぬのかな? 救えた気になって、何も救えていなかった僕の最後にしては、もしかするとこれはいい終わりなのかもしれない。 諦めだした僕の心が、ゆっくりと瞼を閉じようとした時。 「変身!!」 目の前に現れた真っ赤な炎が、僕の心を灯した。
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