歪な恋は聖夜に始まる。

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 初めてだと、真崎は言った事がある。自分を最後まで玩具のように扱ったのは、設楽が初めてだと、そう言ったのだ。それも、頗る嬉しそうにはにかんで。優しくされると萎えると、そう言った真崎に変態と罵ったのは設楽なのだから忘れようはずもない。  そんな男が妙な人間臭さに取りつかれて平然としていられる筈がない事は、設楽にも分かる。それほどまでに、真崎は異常だと、そう思ったのだ。けれど真崎は、その異常な性癖と通常時の境界はしっかりしている筈だった。  表向き仕事をしている時の真崎は、どこから見ても非の打ちどころのない有能な男である。事実真崎が秘書を務めるのは、今は引退しているとはいえ国内でもトップクラスのアパレル系企業グループの会長だった男だ。会長の引退に伴い頼み込んで会社付きから私設秘書にしてもらったのだと、どこか誇らしげに話す真崎の気持ちは、同じく仕えるべき者を持つ設楽にも理解が出来た。  だがしかし、一歩仕事から離れ、欲を剥き出しにした真崎の姿は設楽にとって理解できるものではない。自らを無機物のように扱って欲しいなどという異常な欲求は、理解したいとも思わないものだった。が、現在の真崎の姿を見ていれば、分かる事くらいは設楽にもある。  不愛想ではあるが、けっして鈍感ではない設楽には、真崎のそれが恋愛感情だという事くらいは理解できた。真崎本人は、気付いていないのだろうけれど。  ―――欠陥品だな。     
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