856人が本棚に入れています
本棚に追加
信号待ちで停止した車内に、ぽつりと真崎の本音が響いた。
「別にどんなツラもねぇだろ。下手打つ事なんて誰だってある」
「それは…そうですが…」
「お前の妙な性癖の事を言ってんなら、それこそ個人の趣味だろぅが。誰も何も言いやしねぇよ」
「そう…でしょうか…」
雪人にだけは知られたくないと、そう言って真崎は涙を流したが、結局知られていた上に戻って来いというのだから気にする必要もないだろうと、そう思う設楽である。
「まあ、お前ほどとは言わんが、ここだけの話うちの親父は躾けんのが好きだからな…、下手すりゃ雪人さんも似たようなもんなんじゃねぇのか?」
「はひ?」
素っ頓狂な声をあげる真崎に、些か唐突過ぎたかとは思うが、それでも設楽は笑ってみせた。
「雪人様がそんなはずは…ってか? 考えてもみろよ、親父と雪人さんじゃどう足掻いたって雪人さんの方が女役だろう」
「そっ…それは…そうなんでしょうが…。いやでも…」
もごもごと口籠りながらも信号が変わり、車を出す真崎はそれでも腑に落ちない様子だった。だがしかし、正直なところ設楽には確信がある。何せ匡成の守備範囲は広く、もちろん男に抱かれる事を商売としている女もそこには含まれている。
最初のコメントを投稿しよう!