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質問の意図が理解できないとでも言うように、怪訝な顔付きで真崎が見上げてくる。再び溜息を吐けば、恥じ入るように真崎は床へと視線を落とした。
「なあ真崎。お前は人であってモノじゃねぇよ。感情があんのは当たり前だろうが」
「ですが…こんな感情をいだいた事などわたくしはこれまで一度も…。それどころか…これまでわたくし自身が嫌ってきたものなんです…」
「まあ、確かにモノは恋なんぞしねぇだろうな。人を好きにもなりゃしねえよ。だがお前はモノじゃねえ。お前が嫌おうがどうしようが、それが人ってもんで、お前も人だ。おかしなことは何もねぇよ。混同すんな」
「ひ…と…?」
まるで幼子のように呟いて、真崎が黙り込む事数十秒。一度がばっと顔をあげた真崎と視線が合ったかと思えば、すぐに再び床へと突っ伏す様子に苦笑が漏れる。
真崎とて馬鹿な訳でもなければ鈍感な訳でもないだろうと設楽は思う。ただ、境界線を上手く引けずに混乱し、混同し、浮上する糸口を見失っていただけだ。
「わたくしは…わたくしとした事が…何という失態を…っ」
「ちっとは可愛げがあんじゃねぇか」
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