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「しかし真崎よ、お前本気で辞める気でいたのかよ?」
「え…?」
「あっ…! 匡成っ!!」
きょとんと顔を上げた真崎と、どこか慌てたような雪人。そんな二人の反応に、何かに気付いたのか匡成が渋い顔をした。
それまでの大人しそうな雰囲気はどこへやら、雪人が慌ててソファへと歩み寄る。何やらごにょごにょと耳元で遣り取りをしている二人に、設楽は真崎と顔を見合わせた。次の瞬間、匡成の笑い声が部屋に響き渡る。
「ぶっは…、雪人お前…っ、ははっ…こりゃあいい」
「匡成…!」
「いやだってお前よ…、そんなもんいずれバレんだろぅよ」
「うぅ…」
匡成の科白を聞けば、二人の間の遣り取りにどことなく予想がついてしまう設楽だ。これは一杯食わされたかと呆れていれば、隣から真崎が袖を引く。
「あの…尊…、辞職とは…やはりわたくしは…」
「いや? どうやら俺は、雪人さんに一杯食わされたらしいな」
「雪人様に?」
真崎の視線が雪人へと向かう。その先で、当の本人は匡成の影にサッと隠れてしまった。
―――子供か?
と、そう思ったのはどうやら設楽だけではないようで。真崎もまた何かに気付いたのか、困ったように小さく笑った。
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