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コーヒーカップを両手で持ったまま心配する真崎の頭をくしゃりと撫でる。常に冷静で隙のない振る舞いをする外見からは想像できないほど、真崎の根は素直だ。
最初こそ強引すぎる態度で設楽に近付いてきた真崎だが、真崎のような男を虐げたいと思う輩は、確かにいるだろうとは思う。結局流された設楽自身、人の事など言えはしない。
「どちらにせよ、雪人さんはただのヤクザ風情には荷が重い。お前が戻ってきて何よりだよ」
「尊にも、ご迷惑をお掛けしてしまいましたね…」
「二度となければそれでいい」
「はい。今度はちゃんと…尊にも雪人様にも相談する事に致します」
ぴとりと胸に寄り添い、甘えた声で囁く真崎に設楽は眩暈を覚える。天然なのか計算しての事なのか、どちらにせよ性悪な事に変わりはないのだが。
ともあれこんな煽られ方をして、黙っているような設楽ではなかった。
「帰るぞ」
短く言えば、嬉しそうな真崎の声が素直に返ってくる。
「はい」
個人宅とは思えないほどに広い廊下を歩き、真崎とともに階段を降りれば初老の男性と出くわした。その男が、桃井(ももい)という雪人の執事である事は設楽も知っている。
「これは真崎様。お戻りになられたのですね」
「桃井様、お久し振りでございます。この度はご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした」
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