歪な恋は聖夜に始まる。

16/127
前へ
/127ページ
次へ
 拘束も何もないのに健気に言う事を聞いている事だけは感心できるが。  不意に短い着信が胸元の携帯から聞こえて、取り出してみれば真衣からのメールである事に気付いた。設楽の手にかかると些かならず押しにくそうにみえる小さなボタンを操作すれば、食事とプレゼントへの礼の言葉と、『応援してるね』という文字とともに何やら小さな絵が動いていて苦笑する。  いったい何を応援するつもりなのだと思い、目の前の真崎に思考が辿り着く。真衣は、昔から周囲の大人の機微に敏い子供だった。きっと真崎が設楽に向ける感情に気付いている。そして、設楽が真崎に向けるものにも。  ―――応援か…。そんな可愛らしいものか?  さすがの真衣とて真崎の本性には気付かなかったようで安心する。その点の真崎は、今日のような事が起こらない限りは信用できるはずだった。何せ設楽でさえも、幾度も顔を合わせているというのにあの晩までは知らなかったのだから。  僅かに身じろぐ気配に携帯電話の画面から真崎へと視線を移せば、ほんの少しだけ真崎が距離を縮めていた。高く組んだ設楽の足先を物欲しそうに見つめる真崎の顎を、爪先でくいと持ち上げる。 「お綺麗な顔を差し出すなよ。仕事に支障が出る」 「ぁ…あぁ…設楽様…、心得ております…」     
/127ページ

最初のコメントを投稿しよう!

857人が本棚に入れています
本棚に追加