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『お待たせしました! 先輩今から来られます?』
「ああ」
『じゃあ、用意してお待ちしてます!』
返事もせずに電話を切り、設楽は立ち上がった。住み慣れたアパートの鴨居をくぐり、玄関をくぐる。幾度となくカギを交換したせいで、そこだけは新しいドアノブにカギを差し込んだ。
築うん十年の安アパート。そのすぐ隣には、表通りに面した場所に出入口がある機械式の立体駐車場があった。管理人常駐で、駐車場の月額使用料は設楽の住むアパートの家賃と然程変わらない。
路地というよりは建物の隙間を通り抜け、駐車場の入口へ回れば顔馴染みの管理人が手をあげた。
「おはようございます。設楽さん」
「おはようございます」
「今日は寒いですねー。タイヤは替えられましたか? 雪になるそうですが」
雑談をしながらもしっかりと手を動かす管理人は、元警察官だという。設楽の職業が極道である事は車を見ればすぐに分かる筈だが、下手な一般人のように好奇の視線を向ける事もなく接しやすい。
「ちょうど、これからです」
「そうですか。気を付けて運転なさってください」
「はい。ありがとうございます」
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