856人が本棚に入れています
本棚に追加
駐車場の扉が開くと見慣れた車のテールが見える。些か狭い通路から乗り込んで車をバックで出せば、ターンテーブルがくるりと向きを変えた。小さく管理人に頭を下げてから、設楽は車を出した。
車の見た目が明らかに威圧感を放つおかげか、車線を譲られ、邪魔をされる事も滅多にない。ストレスもなく設楽は目的地である青木の営む工場へと辿り着くことが出来た。
「お待ちしてました先輩ッ。今日寒いっスね!」
「ああ、そうだな」
「事務所にお茶用意してありますんで!」
車から降りる設楽と入れ替わるように運転席へと収まった青木は、すぐに工場の中へと車を移動させる。三十分足らずでタイヤの交換を終え、青木は事務所へと顔を出した。設楽が腕の時計へと視線を落とす。
「遅かったな」
「オイルの交換もそろそろだったんでついでにしときました」
「そうか」
◇ ◇ ◇
世間がクリスマスで賑わう中でも、設楽の職場である事務所にはそれらしい飾りは一切ない。土地柄、表を歩けばそこかしこで軽快な音楽が鳴り響き、辺りが暗くなれば一カ月ほど前から事務所にもいつもよりも華やかなネオンの光が差し込んできていた。だが、それだけだ。それもあと二日もすれば元に戻るだろう。
最初のコメントを投稿しよう!