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年末で色々と雑多な業務が増えてはいたが、設楽は時計の針が午後六時を指した時点で仕事を切り上げた。今日は、離れて暮らす妹、鏑木真衣(かぶらぎまい)との約束がある。三十一歳の設楽より一回りも年下の妹は、両親が離婚した時に父親が引き取った。とは言え、今の設楽と同業者だった父親は四年前に他界し、その年から真衣の面倒を見てきた設楽にとっては娘のようなものでもある。
十九にもなればそろそろクリスマスなどは男でも作って一緒に過ごせばいいとは思うものの、何故か今年もどこかに連れて行けとせがまれた設楽である。
『どうせお兄ちゃんだって彼女いないんでしょ? クリスマスくらい付き合ってあげるよ』
ケラケラと笑いながら言われてしまえば実際彼女もいない設楽には無理に断る道理もない。かくして設楽は仕事を切り上げ、事務所を後にした。
一歩表に出れば、賑やかな音楽が耳に流れ込む。設楽は車を取りには向かわず、待ち合わせの場所へとそのまま足を向けた。あまり事務所の近辺を真衣を連れて歩きたくはなかったが、当の本人がそれを承知の上で待ち合わせの場所を新宿にしているのだからどうしようもない。
客引きが声を掛けようとして、相手が設楽である事に気付くとペコペコと頭を下げながら去っていく。それを無表情に見遣り、辿り着いた先には既に真衣の姿があった。
「待たせたか」
「ううん。今来たとこ」
するりとナチュラルに腕に絡みつく真衣を、設楽はちらりと見遣る。
「そういう事は男にやれ」
「お兄ちゃんも男じゃん」
「そうじゃなくてな…」
「ははぁ~ん? さては照れてるね? あたし胸おっきいからね~♪」
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