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どうやらさっきの物音は、真崎の足元に落ちているアタッシュケースがたてたものらしい。だがしかし、アタッシュケースを取り落とすなどらしくもない…と、そこまで考えた時、真崎の視線が真衣が抱きついている腕を凝視している事に気付く。
「ちょっと待ってろ」
そう真衣へと言い残し、設楽は真崎へと近付いた。
「いったい何をやってる」
「設楽様…」
足元に落ちたアタッシュケースを拾い上げた設楽は、真崎の表情に思わず息を詰めた。どうしてそんなに悲しそうな顔をしているのか。どうして、今にも泣きそうなほどか細い声で名を呼ぶのか。
何故か、目が離せなくなる。
「申し訳ありません…。邪魔をするつもりはなかったのですが…、わたくしとした事が取り乱してしまって…」
「邪魔? 何の事だ」
「あぁいえ…。っ失礼します…!」
そう言って踵を返した真崎は、設楽が声をかけても立ち止まる事なく走り去った。それも、設楽の手の中にアタッシュケースを残して…だ。
「何なんだ?」
呆れたように呟き、設楽は残されたアタッシュケースを見て溜息を吐く。その後ろから、真衣が手元を覗き込んだ。
「え? 今の人鞄忘れてっちゃったの!?」
「ああ」
「ふーん…? てかあの人、お兄ちゃんとあたしの事、きっと誤解してるよ?」
「誤解も何も、俺がどうだろうとあいつには何の関係もない」
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