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歪な恋は聖夜に始まる。
『今日は冷え込みも厳しく、夜になると雨もしくは雪も予想される見通しです』
『それじゃあ今年は関東でも、雪が恋人たちの前夜祭に華を添えてくれそうですね!』
『そうですね。ただ、足元が滑りやすく…』
聞こえてくる賑やかな音声を途中で遮るように、設楽尊(したらみこと)はテレビを消した。十二月二十四日。夕方からの降水確率は八十パーセント。そして確かに、今日は朝から冷え込んでいた。
万が一雪になる事を考えれば、あまりゆっくりはしていられない。テーブルの上に置いていた携帯電話を取り上げると、設楽は後輩へと電話をかけ始めた。
『お疲れ様ですッ』
こちらが名乗る前から行儀よく挨拶をする後輩の名は、青木(あおき)といった。職業は、小さいながらも自動車の整備工場を営んでいる。設楽は、自分の乗る車の整備をすべて青木に任せていた。
「タイヤ、すぐに交換できるか」
『あー、スタッドレスっすか? 今日寒いっスもんね! ちょっと待ってください、今予約確認してきますんで』
「ああ」
待てと言いながらも電話は持ったままなのだろう、バタバタと走る足音と、ガサガサと紙を捲る音が丸聞こえで設楽は苦笑する。
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