定食屋の恋

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「あの日、両親は私を無理やり連れだして京都を離れたの。"よし子にはもっとふさわしい人がいる"って」 その後、彼女はほんのりと涙目になったような気がした。 「なによ、ふさわしい人って……敬浩(たかひろ)さんよりふさわしい人なんていっこないのに。でも、そのときの私はなんにも言い返せなかった」 おっちゃんは今にも泣き出しそうな彼女をただただ見守った。 「私たち家族は東京に移り住んで……私はあくる日もあくる日もお見合いさせられて……肩書もそこそこ、収入もそこそこな人と結婚したんだけど、結局1年も経たないうちに別れちゃった……」 ついに、彼女の目からぽつりと涙が落ちた。 「でもね、お互いによかったと思うの。元から愛なんてなかったんだから……終わって当然よ」 よし子さんはおっちゃんを見つめた。 笑顔だったが、その表情は悲しかった。 おっちゃんは、すかさず上着のポケットからあるものを取り出した。
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