定食屋の恋

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よし子さんはおっちゃんの手を優しく(ほど)いて、箱を彼の前に戻した。 「……ごめんなさい」 よし子さんは丁寧にお辞儀をした。 その姿を見ながら、おっちゃんは彼女の返事を胸の中で繰り返した。 「私、敬浩(たかひろ)くんが好きよ。でも……簡単には受け取れない」 彼女は顔を上げ、おっちゃんを見つめた。 「時間が経ち過ぎたのよ……私たちにはそれぞれお店がある。私たちの料理を待ってくれるお客さんがいる」 よし子さんの大きな瞳に、涙が再び溢れてきた。 「敬浩(たかひろ)くんを選ばないんじゃないの……お客さんを捨てられないの……」 そう言って、よし子さんは手で顔を覆った。 泣いている。 それはとても綺麗な涙だった。 おっちゃんは手を伸ばした。 そして、そっと彼女の頭を撫でた。
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