定食屋の恋

36/46
前へ
/46ページ
次へ
「俺やて、お客さんは大事や。それを捨ててこっちに来いなんてひとことも言ってないやろ?ただ、きみが俺を好きでいてくれたらそれでいい。それ以上は望まへん」 おっちゃんの優しい言葉を聞いて、よし子さんは覆っていた手を下ろした。 「でも……私なんにもしてあげれないよ?」 おっちゃんは、もう一度彼女の手を握り、首を振った。 「それでいいんや。好きでいてくれればそれで。きみは何も捨てなくていいんやで?」 よし子さんは、おっちゃんの言葉を聞いて、つかえが取れたようにぽろぽろ泣き始めた。 「せやな……たまには東京でデートでもしよ?昔みたいに。そんで、俺のこともういっぺん惚れ直してくれや。俺はいつでも待ってんで……よし子」 おっちゃんは、涙を流す彼女の頭をもう一度撫でてやった。
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加