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彼女は今も近くに
寝ている時にひやりとした何かが頬をかする。
それは指平のようで一本一本で確かめるようになだらかな動きで顔に感覚を刻み込んでいく。
いったい誰が? だけど、この部屋には自分ひとりしかいないはず……。
瞼を開けようにも、まったく動かせる気配はない。
これはいわゆる金縛り? なのかもしれない。
金縛りになったのは、たぶんこれが初めてだ。
とはいえ、気が付かないだけで、金縛りになったことがあるんだろうけど……。
そんなことより、今の現状だ。
一人暮らしで家主が寝ているのにも関わらず、誰かわからない何かが自分の頬を触っている。
金縛りのせいで一体誰が触っているのか知りたいのに、確認さえもできないのがもどかしい。
心の中でいろいろと考えているのが伝わったのか、いつまでも触り続けていた手がピタリと止んだ。
ひやりとした冷たさがなくなって、瞼も動かせるようになってきた。
でも、何者かはこの部屋にまだ居座っている気配を放っている。
さて、金縛りが解けたことだし、顔を見てみようと瞼を開けてみた。
ぼんやりとする視界の中、薄暗い淡い光に包まれながら一人の女性が、長い前髪を垂らしてこっちをじっと見つめる風貌が映った。
こっちをみてくる女性にちょっとした恐怖心を感じたけれど、はっきりとしてくる視界に映ってくるほど、なかなかに綺麗な女性であると思い始めてきた。
声を掛けたいけれど、声はでない。これほど残念に思うことはなかなか存在しない。と思う。
意識も気配も完璧に覚醒していくと、女性はにっこりとほほ笑むようにして、消えていった。
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