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プロローグ
指定された時間より二分過ぎて、持田博紀(もちだひろき)は行きつけのファミレスに到着した。ちなみに歩きで来た。ファミレスの駐車場の隣に、博紀のアパートが建っているのだ。
博紀がボックス席に腰を下ろしたとたん、向かい側に座っている女――田所亜希(たどころあき)が、スマホをこれ見よがしにテーブルの中央に置いた。液晶画面には大きく二十時二分と表示されている。
「持田のその時間に大らかなところ見習いたいよ、私も。でも駄目なんだよね。たとえ一分の遅刻でも、すごい罪悪感覚えちゃうから」
二分遅れただけでこの嫌味。博紀にとってはイチャモンのレベルだ。
「ごめん。出ようと思ったらトイレ行きたくなってさ」
とりあえず謝り、即席の言い訳をこしらえた。
ウェイトレスがオーダーを取りに来たので、博紀はアイスコーヒーを頼んだ。夕飯と酒を腹に収めたあとで、正直何も入れたくなかった。
ウェイトレスが消えると、不機嫌を顔に載せたままの亜希が腕組みをした。
「別れを惜しんでて遅れた――とかじゃないよね?」
「んなわけねえだろ」
そう返したものの、内心は冷や汗が出る思いだった。
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