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彼本人がそうしろって。…プライベートな空間に絶対に他人を引き入れるなって、そう言ったから。
そんな思いを振り切るようにエレベーターのボタンを押し、開いたドアに身を滑り込ませながらわたしは尋ねた。
「神野くんちはこういうマンションじゃないの?この辺だとそういう家が多いと思ってたけど。もしかして一軒家?」
「そうだな。中途半端に古いよ。僕が生まれる前に建てたらしい。そのあとこの辺もこの手の高層マンションがすごく増えたらしくて。そっちを買えばよかった、って母親が未だに未練がましく時々言ってる」
わたしはちょっと笑った。
「そうかな。一軒家のが断然いいよ。隣近所の人の顔が見えるじゃん。マンションって、なんか…。物寂しいっていうのかな。隣や上下の人の気配がないの。こうして通路を歩いてても滅多に人とすれ違わないし」
人の声が吸い込まれたみたいに響かない廊下。知らなかった、ここで会話したことなんかほぼなかったから。何か特殊な壁材か、音を吸う構造なのか。ぼそぼそと低い声で説明したわたしに隣の神野くんは涼やかな目を向ける。
「静かでいいじゃん」
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